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東京地方裁判所 昭和47年(モ)10878号 判決

債権者 宮崎覚

右訴訟代理人弁護士 西坂信

債務者 金鎮奎

右訴訟代理人弁護士 松島政義

主文

原決定(当庁昭和四七年(ヨ)第四五二七号)を認可する。

訴訟費用は債務者の負担とする。

原決定添付図面を別紙借地権目録添付図面のとおり更正する。

事実

第一当事者双方の求めた裁判

債権者訴訟代理人は、主文第一項同旨の判決を求め、債務者訴訟代理人は「原決定を取消す。本件仮差押申請を却下する。」との判決を求めた。

第二当事者双方の主張

一  債権者の申請の理由

1、債権者は債務者の振出した別紙手形目録記載の手形を所持している。

2、債務者は既に自己振出の約束手形の決済ができないで銀行取引停止処分を受けており、別紙借地権目録記載の借地権以外に財産がないので、右債権の執行を保全するため、右借地権の仮差押を求める。

二  債務者の答弁ならびに主張

1、申請の理由第一項は認める。

2、本件仮差押決定は左の理由により失当である。

(イ) 借地権は賃貸人が予め賃借権の移転を許している場合に限り差押が許されるものと解すべきところ、本件借地権については、賃貸人が予め譲渡性を付与したこともないし、具体的に移転を許したこともないので、本件借地権は被差押の適格を欠くものである。

(ロ) 本件仮差押決定は、借地権の目的物件である土地について、起点・方位・距離の記載がなく、仮差押の対象が特定していない。

三  債務者の主張に対する債権者の答弁債務者の主張はいずれも否認する。

第三疎明関係≪省略≫

理由

一  債権者が債務者に対して債権者主張のとおり手形債権を有していることは当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫によると、債務者は原決定当時既に、自己振出の約束手形の決済ができないで銀行取引停止処分を受けていたことが疎明されるので、被保全権利および保全の必要性についての疎明は十分である。

二  そこで債務者の主張について判断する。

先ず、本件借地権は被差押適格を欠くとの主張についてみるに、借地権が借地権価格という経済的価値をもち、客観的財産権として把握されるに至っている現在においては、借地権の移転についての賃貸人の承諾が或る程度期待し得る場合には、借地権を差押えることは許されるものと解するのが相当であって、これを本件借地権についてみるに、≪証拠省略≫によると本件借地権には無断譲渡、転貸禁止の特約があることが認められるので、本件借地権には一般的な譲渡性はなく、さらに≪証拠省略≫によると、本件借地権の目的たる土地は更地であることが認められるので、本件借地権の移転については借地法第九条の二ないし四の適用される余地はないけれども、≪証拠省略≫によると、本件借地の賃貸人である訴外丸沢正雄は、借地権の譲受人の信用および名義書換料の支払等の条件次第によっては、本件借地権の譲渡を承諾する意向であることが窺われるので、本件借地権の移転については右の限度で賃貸人の承諾を期待し得るものといわねばならない。したがって、本件借地権が被差押適格を欠き、原決定が違法であるとの債務者の主張は採用し難い。

次に、原決定においては、仮差押の対象となっている借地権の目的たる土地の区域が特定されていないとの主張についてみるに、原決定の借地権目録添付図面に、方位および縮尺の記載のあることは本件記録上明らかであり、≪証拠省略≫によると、右図面には距離を示す数字が遺脱しているが、右図面は現地の実測図面(縮尺五〇〇分の一)と同一のものであることが認められるので、右図面によっても借地権の目的たる土地の区域を確定することは可能であって、距離を示す数字を欠くからといって、これをもって直ちに目的物件の特定を欠くものとはいい得ず、右主張は理由がない。

ただし、右図面に距離を示す数字を明記することは、目的物件の特定のためにより正確であるから、民事訴訟法第一九四条に則り別紙借地権目録添付図面のとおり原決定の借地権目録添付図面を更正することとする。

三  以上認定のとおり原決定は相当であるからこれを認可することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 中村健)

〈以下省略〉

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